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節薬バッグ運動 外来患者の残薬の現状とその有効活用による医療費削減の取組み
aFukuoka City Pharmaceutical Association; 111 Imaizumi, Chuo-ku, Fukuoka 8100021, Japan: and
bDepartment of Clinical Pharmacy and Pharmaceutical Care, Graduate School of Pharmaceutical
Sciences, Kyushu University; 311 Maidashi, Higashi-ku, Fukuoka 8128582, Japan.
(Received June 2, 2013; Accepted August 2, 2013; Advance publication released online August 23, 2013)
Pharmacists, being compensated through the new dispensing fee, are required to educate patients on their adhesion
to the use of prescribed drugs, and to inventory the levels of leftover drugs in outpatients. Recently, Fukuoka City Phar-
maceutical Association started a campaign for regulating leftover drugs (Setsuyaku Bag Campaign). Thirty-one phar-
macies joined the campaign. Pharmacists distributed convenience bags, called `SETSUYAKU-BAG.' The patients put
their leftover drugs in the bags and brought them to community pharmacies. The pharmacists inventoried the returned
drugs and reported their results to the doctors. The doctors adjusted the prescriptions accordingly. We counted and ana-
lyzed old and new inventories. The number of leftover drugs was 252, for a total value was ¥839655. Cost of leftover
drug prescriptions could be reduced by ¥702695, and the value of drugs thrown away was ¥94801. In total, we could
reduce the amount of leftover drugs by 83.7%. The cost of leftover drug for one dose package (ODP) is higher than that
for non-ODP. However, there were no signiˆcant diŠerences in results per age, sex, number and kinds of drugs,
prescription days and premium contribution rate. These results suggest that prescription regulation by inventory of
leftover drugs in community pharmacies could signiˆcantly reduce overall medical expenses. Further studies are necessa-
ry in order to account for patients' health, and to establish more e‹cient patient education to raise outpatients' adher-
ence to the new programs.
Key words―leftover drug; prescription regulation; medical expense; community pharmacy; adherence
改善に対する薬剤師の関与についての実態調査によ
緒 言
ると 6 割以上が残薬を保持し,また,平成 24 年の
医療費の増大は年々深刻化している.1,2) この医療 別の調査でも 4 割以上がなんらかの理由で薬剤を飲
費の増大に歯止めをかけるため,後発医薬品普及を み忘れている.4) 一方,残薬を薬剤適正使用に配慮
始めとする様々な方策が検討されている.3) このよ し有効に再利用できれば薬剤費削減が可能であるこ
うな現状から考えると,薬剤師の職務において,医 とが示唆されている.
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しかしながら,平成 24 年 4 月以降,保険薬局に
おいて残薬の確認を受けたと意識している患者は
24 %に留まっている.4) またこの残薬確認と処方調
整による実際の削減金額,医療費抑制に対する寄与
に関しては明らかとなっていない.
そこで,一般社団法人福岡市薬剤師会と連携し,
「節薬バッグ運動」を試験的に実施した.患者に
「節薬バッグ」と名付けたエコバッグを配布し,残
薬を持参して頂き,その薬剤について処方調整を試
みた.当運動を通し,外来患者の残薬の現状を調査
するとともに,残薬確認による処方調整の医療費抑
制に対する寄与を検討するため,処方調整できた薬
剤を削減可能な残薬として捉え,総残薬金額,削減
薬剤金額等を集計した.同時に患者属性や処方内容
から残薬発生の要因分析を行った.
方 法
1. 運動実施期間と実施薬局 運動実施期間
は,平成 24 年 6 月 8 日から同年 8 月 31 日までとし
た.
運動参加薬局は,一般社団法人福岡市薬剤師会の
会員薬局で,経営体制,規模,主たる処方元の診療
Fig. 1. Poster of SETSUYAKU-BAG Campaign
科目などに制約をつけず抽出し,本運動の目的を説
明し参加の了解を得た 31 薬局とした.
2. 対象患者 実施薬局に来局した 20 歳以上 再利用が可能と考えられる残薬,2)再利用ができ
の全 外 来患 者に 対 し, 薬局 窓 口に て, ポ スタ ー ず,継続保持となる残薬(他科受診なども含む全残
(Fig. 1),チラシ等を用いて本運動の目的・内容, 薬での調査のため,調査時に持参された処方箋では
データが研究に用いられることを説明し,「節薬バ 再利用不可の場合)
,3)外観や期限などから,破棄
ッグ」を無料配布し,口頭で運動参加の同意を取得 すべき残薬.患者が説明を理解し,残薬再利用の要
した患者を対象とした.薬剤服用歴に説明実施と同 望を確認した後,処方医に処方調整の疑義照会を行
意取得の記載を行った.なお,本研究は九州大学病 い,患者,処方医,双方の了解を得た上で,処方調
院地区臨床研究倫理審査委員会及び,一般社団法人 整を行った.
福岡市薬剤師会倫理審査委員会双方の承認を得て実 4. 残薬チェックシートの記入と解析 薬剤師
施した. は,残薬や処方調整内容に加え,患者属性(年齢,
3. 残薬の確認と処方調整 同意が得られた患 性別,保険負担割合),処方属性[処方剤数(処方
者には,次回来局時(処方箋調剤実施時),自宅に された薬剤の種類数)
,処方日数(回数),一包化の
ある残薬をすべて「節薬バッグ」に入れ,薬局に持 有無,用法,飲み忘れ]に関する情報を「残薬チェ
参して頂くよう説明した.薬剤師は,上記実施期間 ックシート」( Fig. 2 )の様式に従い記入した.そ
内に患者が残薬を持参若しくは申告した場合,すべ のシートを用い,総残薬金額,削減薬剤金額,破棄
ての残薬について確認,計数を行った.要冷所保管 薬剤金額について薬価を用い集計した.9) また,患
薬品や大量の外用剤など重量のある薬品について 者属性や処方属性によって残薬金額に違いがみられ
は,患者申告での残薬計数も可とした.患者に,処 るか解析した.薬効は日本標準商品分類番号により
方内容と照らし以下の 3 点につき説明を行った.1) 分類した.飲み忘れは,残薬確認時に薬剤師が患者
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Item
Number of SETSUYAKU-BAG distributed to 1600
outpatients
Number of outpatients brought leftover drugs
to pharmacy 252
Fig. 2. Check Sheet of Leftover Drugs for SETSUYAKU- 処方剤数は平均 6.5±3.2 剤であった.
BAG Campaign
2. 残薬金額並びに削減金額 総残薬金額は
839665 円,うち削減薬剤金額は 702695 円であり,
から飲み忘れの多かった服用時点を聞き取り,残薬 金額ベースで 83.7 %の残薬が再利用可能であった
チェックシートにその内容を記載したものである. ( Table 2 ).また,破棄薬剤金額は 94801 円,総残
飲み忘れ率は,用法から集計した服用時点件数に対 薬金額の 11.3 %となった.残薬として継続保持と
する飲み忘れ件数の割合として計算した. なった薬剤は 42159 円,総残薬金額の 5.0%であっ
5. 統計 年齢,処方薬剤種類数,処方日数と た.
残薬金額との相関は Spearman rank correlation test 3. 残薬金額に対する要因
により解析した.性別,一包化の有無による残薬金 3-1. 年齢,性別 年齢と残薬金額の間に相関
額の比較は,Wilcoxon rank sum test によって解析 は認められなかった(r=0.046, p=0.472)
(Fig. 3).
した.保険負担割合の異なる患者群間における残薬 また,男性の残薬金額は 1831 円(中央値)
,女性の
金 額 の 比 較 は , Steel-Dwass test に よ っ て 解 析 し 残薬金額は 1870 円(中央値)であり,性別によっ
た.危険域 p<0.05 で統計的有意とした.解析ソフ て残薬金額に有意な違いは認められなかった(p=
トは JMP9.0 を使用した. 0.565).
3-2. 保険負担割合 自己負担 0 割の患者数は
結 果
38 名(15.1%)
,残薬金額計は 179517 円(21.4%),
1. 患者の基本情報 節薬バッグ配布枚数は 1 人あたりの残薬金額 2558 円(中央値),自己負担
1600 枚であり,残薬を持参した患者数は 252 名, 1 割 の患 者 数 は 113 名 ( 44.8 % ), 残 薬金 額 計 は
残薬回収率は 15.8%を超えた(Table 1).また,残 363952 円(43.3%),1 人あたりの残薬金額 1638 円
薬を持参した患者の男女比は男性 111 名(44.0%), (中央値),自己負担 3 割の患者数は 101 名( 40.1
女性 141 名(56.0 %),年齢は平均 69.2 ± 15.2 歳, %),残薬金額計は 296185 円( 35.3 %), 1 人あた
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名,不明 11 名であった.チェックシートに記載が
漏れていたものは不明とした.処方薬剤種類数及び
処方日数と残薬金額の間に相関は認められなかった
(処方薬剤種類数 r=0.133, p=0.037,処方日数 r=
0.123, p=0.054)
(Fig. 5)
.
Fig. 4. In‰uence of the Patient's Copayment on Value of
Leftover Drugs 3-4. 一包化の有無 一包化あり患者 41 名の
The boxes represent the upper and lower quartiles; lines in the box 残 薬 種 類 数 は 平 均 7.8 ± 3.0 剤 , 残 薬 金 額 計 は
represent the median values. The vertical lines extend to 10% and 90%
values, respectively. Statistical analysis was performed using Steel-Dwass 208289 円,1 人当たり 2145 円(中央値)であり,
test.
一包化なし患者 211 名の残薬種類数は平均 6.2±3.1
剤,残薬金額計は 631534 円, 1 人当たり 1651 円
りの残薬金額 1607 円(中央値)であった.自己負 (中央値)であった.一包化あり患者の残薬金額
担のない患者群は,自己負担 1 割あるいは 3 割の患 (中央値)が有意に大きかった(p=0.048)
(Fig. 6).
者群と比べ,残薬金額が大きい傾向がみられたが, 3-5. 用法 服用時点別による飲み忘れ率を
ともに有意差はなかった(1 割 p=0.160,3 割 p= Fig. 7 に示す.昼の割合(43.6%)が他の服用時点
0.052)
(Fig. 4)
. と比べ高かった.
3-3. 処方薬剤種類数,処方日数 処方薬剤種 また食事との関連では,食前・食直前の処方が出
類数は,3 剤以下 51 名,4
6 剤 85 名,7
9 剤 68 名, ている患者 31 名中の 9 名( 29.0 %)に飲み忘れが
10 剤以上 44 名,不明 4 名であった.また処方日数 みられた.
は,15 日以下 60 名,16
30 日 134 名,31 日以上 47 3-6. 薬効分類別 金額ベースでは,その他の
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ていると報告されていることから考えると,低い値 される薬剤が,分類上,血管拡張薬と降圧薬に 2 分
に留まっている.残薬を持参又は申告され,薬剤師 されており,両方を合算して考えると,金額ベース
が確認した上で処方調整を行い,医療費抑制につな では降圧薬の残薬が最も多くなった.残薬として高
げる取組みは開始されて日が浅い.今後,患者,薬 血圧,高脂血症,糖尿病治療薬が多くみられたこと
剤師の意識を高め,この取組みの定着を図ることが は,複数の合併症を有し服薬アドヒアランスを良好
重要と考える. に維 持 する こ とが 必要 と され るこ れ ら生 活習 慣
削減薬剤金額に関しては,持参された残薬の約 病1416)に対する薬物療法において,治療効果を上げ
84%が薬剤適正使用に基づき有効再利用可能であっ るための十分な服薬アドヒアランスの維持ができて
たことから,残薬確認と処方調整が,医療費の削減 いない可能性が示唆される.
に有効であることを示すことができた.また,今回 以上の結果から,薬剤師は残薬確認を通じ,患者
収集したデータを用い,処方箋 1 枚当たりの削減単 が薬剤を適正に服用できていない様々な理由を確認
価を算出すると 2700 円/枚(702695 円/252 枚)
, 又は推察する必要がある.患者に残薬があり,処方
平成 23 年度処方箋枚数 772 890 000 枚2)を使用し, された薬剤と重複,若しくは代替可能であれば,処
今回の残薬回収率(15.8%)で全国試算を行うと, 方日数などを減らすことができ,薬剤費の削減につ
年間約 3300 億円の薬剤費削減の可能性が示唆され ながる.また,服薬アドヒアランスを高め残薬を減
る.これは,平成 23 年度の総医療費1)の約 0.9%, らすためには,処方医の意図する薬物療法を理解し
調剤医療費2)の約 5.1%に相当する. た上で患者のライフスタイルに合わせた服薬指導を
残薬発生の要因分析に関して,年齢,性別,処方 実施し,また積極的な処方提案も必要と考える.残
薬剤種類数,処方日数に関しては,これまでの報 薬調整に関する処方医への疑義照会を通じ,患者と
告10)と同様に,残薬発生の要因とは認められなかっ 処方医,薬剤師間に服薬アドヒアランスに関する共
た. 通理解が得られれば,処方意図や薬剤適正使用に配
自己負担割合に関して,有意差はなかったが,自 慮した上で,処方薬の整理,配合剤への変更,剤形
己負担のない患者群は,負担 3 割の患者群と比べ, 変更,服用回数の少ない処方の提案など,患者の服
残薬金額が大きい傾向がみられた( p= 0.052 ).医 薬状況の改善を目指したよりよい関係を構築できる
療費節減の政策として後発医薬品の普及が推進され と考える.
ている中,医療費の自己負担のない患者は,自己負 今回の調査は,福岡市内の一部の保険薬局におけ
担のある患者に比べて後発医薬品への変更を望まな る残薬確認と処方調整に関する取組みの評価であ
いという報告もあり,11) 自己負担の割合によりコス り,多くの課題が残されている.この節薬バッグ運
トに対する意識の差が生じている可能性が考えられ 動の最終目標は,患者,処方医,薬剤師の 3 者の連
る. 携を密にし,薬剤の適正使用を推進することで,患
一包化の有無ついては,一包化ありの患者群にお 者の薬物療法に対する意識と服薬アドヒアランスを
いて有意に残薬金額は大きかった.残薬金額の多寡 高め,その結果として残薬,破棄薬の発生を防ぎ,
のみで考えると,コンプライアンス向上に資すると 無駄のない最適な薬物療法を実現することである.
したこれまでの報告12,13)と合致しないようにも考え そのためにも,課題の克服に取り組み,当運動の規
られるが,そもそも一包化を行う要因として,服用 模拡大と定着,継続が必要と考える.
薬剤数が多く服用の煩雑さからコンプライアンスに 残薬確認の実態調査によると,平成 24 年 4 月以
問題があるケースが挙げられ,今回の調査でも処方 降,残薬の確認を受けたと意識している患者は 24
薬剤数は,一包化あり 7.8±3.0 剤,一包化なし 6.2 %に留まるが,同様の質問に薬剤師は 91 %が行っ
±3.1 剤となっており処方金額自体が大きい可能性 ていると答えている.4) この結果は医療従事者と患
が考えられる. 者間の意識及びコミュニケーションの齟齬によると
用法に関しては,これまでの報告10,12)と同様に, ころが大きいと考えられる.今回「残薬の確認」を
昼や食前の飲み忘れが多い傾向がみられた. 受けた,また行ったことを,患者・薬剤師双方に意
薬効分類別に関しては,一般に降圧薬として処方 識付けを行うシンボルとして「節薬バッグ」を使用
No. 11 1221